沖縄シュガーローフの戦い

先週は、WOWOW で放映中の 「The Pacific」 の原作 「ペリリュー・沖縄戦記」 をブログで取り上げたわけですが、引き続きジェームズ・H・ハラスの著書「沖縄シュガーローフの戦い」を読んでみました。

沖縄 シュガーローフの戦い―米海兵隊地獄の7日間

沖縄 シュガーローフの戦い―米海兵隊地獄の7日間


感想・・・全編にわたり凄まじい迫力です。この戦いを歴史に埋もれさせてはいけない。


沖縄戦最大の激戦

沖縄戦を経験した多くの退役軍人にとって、それぞれに絶対忘れられない地名がある。
・・・・・・こうした地名の中で、第六海兵隊師団の兵士にとって忘れられないのは「シュガーローフヒル」である。
一九四五年五月十二日から十八日の一週間にわたって繰り広げられた首里防衛線の西端にある名もなき丘をめぐる争奪戦で、米第六海兵隊師団は二千名を超える戦死傷者を出した。のちの調査では、最終的に丘を占領するまでに、海兵隊は少なくとも十一回の攻撃をおこなった。中隊はすぐ消耗して、すぐに小隊規模になり、最後はシュガーローフ上で染み込むように消えていった。沖縄戦が終わって、第二十二海兵連隊のある軍曹が、自分の中隊の戦列を離れた戦死傷者の数を数えたところ、五百名を超えているのに気が付いた。これは中隊の通常定員の約二倍である。簡単にいいかえると、この中隊は二回全滅したことになる。


沖縄シュガーローフの戦い 7P


沖縄戦というと「大和沈没」や「特攻」「ひめゆり部隊」が真っ先に浮かび、圧倒的な物量を持つ米軍によって一方的にやられたというイメージが強かったのですが、本書と「ペリリュー・沖縄戦記」を読んで完全にイメージが変わりました。「シュガーローフ」はまさに「ペリリュー」や「硫黄島」に匹敵する地上戦です。

高さ15メートル、長さ100メートルの名もない丘、この丘が沖縄戦最大の激戦地となるわけですが、本書の戦闘描写の迫力は凄まじく、いまだかってここまで凄い描写は読んだことがありません。

第二十二海兵連隊を全滅させた丘は、複数の丘が相互連携する構造により強固な陣地が構築されていた。この仕組みを海兵隊側が完全に理解するまで、さらに四日間もの期間が必要であった。
・・・・・・日本軍はこの区域を殺戮ゾーンにつくりかえ、後年「教科書通りの陣地防御術」と第六海兵師団の歴史研究家から評されることになる。
・・・・・・海兵隊員には砲弾の雨が降りそそいだ。のちに編纂された師団史では「敵の砲撃は、これまでの太平洋戦線で出会ったことがないほど、優れた統制と正確さの下で実施されていた」と分析した。
首里高地の日本軍からは、第六師団の動きが丸見えであった。「やつらは、牛乳瓶の中にでも弾を撃ち込むことができた」と、その砲撃の正確性に海兵隊たちは驚きを隠さなかった。


沖縄シュガーローフの戦い 87〜89頁

前線に近い場所では、迫撃砲弾、手榴弾、機関銃弾、それに小銃弾が飛びかっていた。とくに日本軍新型の南部製九九式軽機関銃(通称ナンブ)は一分間に発射速度が八〇〇発で、これは米国製の三〇口径M1919軽機関銃の約二倍の発射速度だった。「まるで女性の叫び声のような音がした」と、この甲高い発射音を海兵隊員たちは回想した。
それに加えて狙撃兵がいた。日本軍の砲撃は海兵隊員たちに無差別におとずれる死の恐怖をあたえていたが、狙撃兵は冷徹に選択された死の恐怖を味あわせていた。日本軍の狙撃兵はきわめて忍耐強く、神業としか思えない選択眼で将校を見きわめていた。彼らは将校か通信兵を狙撃するために一般の歩兵には目もくれずにやり過ごしていた。
・・・・・・「やつらは必ず眉間か、胸のど真ん中を狙ってくる。一発で即死だよ。おまけに絶対外さない。この部分を撃たれた死体があまりに多いから誰もがショックを受けたよ」狙撃兵による戦死傷者の中でもっとも多かった階級は中尉だ。「中尉はつぎからつぎにやってきて、まるでトイレットペーパーみたいだった」・・・・・・「ある将校は着任してから一五分で死んで、またつぎのやつがやってきた」


沖縄シュガーローフの戦い 199頁

多くの海兵隊員たちは日本兵の姿を見ることなく死んでいった。日本兵はひたすら蛸壷や、洞窟、銃眼のなかで忍耐づよく待っており、米兵が彼らの射界に入ってきたときだけ射撃した。「俺は一度も日本兵を見なかった」と、支援の戦車隊として最初にシュガーローフ攻撃に参加したフィル・モレル大尉は回想した。「・・・・・・俺は人が死んでいるのも見たし、血を流しているのも見たし、撃たれたやつも見た。だけど日本兵は一人もいなかった。俺たちは日本軍を攻撃しているんじゃなくて、丘そのものを攻撃していた。奇妙なことに誰も姿が見えないんだ。・・・・・・丘には切れ目があって、そこから弾が飛んできて、それに当たって人間がつぎつぎ死んでいった・・・・・・」


沖縄シュガーローフの戦い 200頁


息をもつかせぬ迫力であっという間に読み進めてしまいました。わずか六十数年前に国内でこれほど壮絶な地上戦が繰り広げられていたことはある意味衝撃です。
訳者の猿渡さんによると、数千人の血を飲み込んだ戦場もいまや全く面影がなくなり、丘の上には配水タンクが立ち、周辺は住宅・ビル、ショッピングセンターが立ち並び平和を満喫する買い物客でごった返していたとのことですが、六十数年前は日本軍と米軍との間で血を地で洗う戦いが行われたこと、そして地下に潜って戦艦の砲撃や空爆に耐え、周到な戦略を練って十一回にも渡って海兵隊の攻撃を退け、第六海兵隊師団に全滅に近いダメージを与えた日本兵の敢闘は、光を当てるべきものだと痛切に感じます。

また海兵隊員たちの回想には、戦場の悲劇と狂気・恐怖と同時に、勇気・献身・機知・忠誠・犠牲と多くのドラマがあり、負傷した仲間を救うため、我が身を顧みず砲弾と銃弾の嵐に飛び込んでいく海兵隊員たちの姿には感動すら覚えます。


忘れられた戦い

また訳者も「あとがき」でこう書かれてますが、これはそのとおりだと思います。

本書に敵兵として登場する名もなき日本兵らの姿は、貴重な目撃証言でもある。一人だけで手榴弾をもって突進してきた兵士、竹槍で斬り込みをしてきた少年兵、海兵隊員たちに「ミイラ男」と呼ばれた、包帯だらけで、よろめきながら突撃をこころみた日本軍の負傷兵など、当時の日本兵の実情を如実に表していると思う。
これらの日本兵の最期は、彼ら海兵隊員たちの証言がなければ、語りつがれることもなく、その存在すら永遠に忘れ去られてしまったのではないか。


沖縄シュガーローフの戦い 「あとがき」 360頁


訳者の猿渡さんは、本書の翻訳を仕事の合間・・・通勤電車の中で行い、約三年もの月日を掛けて翻訳したとのことですが、当初出版の宛てが全くなかったにも関わらず翻訳を続けられたことに敬意を表します。もし途中で投げ出されていたら、本書が陽の目を見ることはなく、私もシュガーローフの激闘は知り得ませんでした。本当にお疲れ様です。


この本は、沖縄の地上戦の様相を余すところなく表しています。少しでも太平洋戦争に興味があるなら、ぜひ本書を読まれることをお勧めします。


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