ペリリュー・沖縄戦記

WOWOW で放映している The Pacific を毎週視てるうち、ペリリュー戦沖縄戦に興味が湧き、本作の原作の一つ、ユージーン・B・スレッジが書いた「ペリリュー・沖縄戦記」を読んでみました。

ペリリュー・沖縄戦記 (講談社学術文庫)

ペリリュー・沖縄戦記 (講談社学術文庫)


感想・・・しばらくトラウマになりそうです・・・(゚д゚ll)

この本は、ペリリューと沖縄の二大激戦に一兵士として加わった著者が、戦場の惨状をありのまま著したものです。
「地獄のような」という表現がありますが、この本に描かれるのはそんな形容詞ではなく、まさに地獄そのものです。本書の中で「人肉粉砕機(ミートグラインダー)」という言葉が頻繁に出てきますが、その言葉どおりの内容です。

以下、かなり気持ちの悪い文章が続きます。食事中の方はご遠慮ください。また The Pacific のネタバレ含むので注意!


射手の頭頂部は、われわれの自動火器のいずれかによるのだろう。吹き飛ばされていた。
・・・・
話しているうちに、隣に座っていた仲間の迫撃砲手の様子が気になりだした。左手に珊瑚のかけらを一掴み握り、日本の機関銃射手の吹き飛ばされた頭頂部めがけて右手で放っている。うまく当たるたびに、むごたらしい傷口に溜まった雨水がポチャリと跳ねるかすかな音が聞こえた。何気ない感じで珊瑚のかけらを放っているところは、故郷の泥道にできた水たまりに少年が小石を投げて遊んでいるのを思わせた。その行為にはまったく悪意はなかった。みな、残忍な戦争に痛めつけられていたからこその、信じられないような光景だった。
・・・・
ふと気がつくと、周囲に倒れている日本兵の死体のいくつかの口元から金歯が覗いて光っていた。私も敵の死体からいろいろなものを頂いたが、金歯はまだとったことがなかった。しかし、死体の一つのとりわけよく光る金歯に誘われて、はずしてみようかなという気になり、ケイバーを取り出してかがみこんだ。



ペリリュー・沖縄戦記 194頁 「第一部 ペリリュー 黙殺された戦闘」

くる日もくる日も昼夜の別なく、腐っていく人間の腐臭が絶えず嗅覚を襲ってくるあのおぞましさは、経験したことのない者には伝えるのが難しい。ペリリュー島のように戦闘が長引くと、歩兵大隊の兵士はいやでもこれを経験する。熱帯にあっては、死体は死後数時間のうちに膨張し、恐るべき悪臭を発し始めるのだ。
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敵味方双方の死者が発する腐臭に加えて、排泄物の臭いにも悩まされた。ペリリュー島の大半は珊瑚礁岩で覆われているため、ごく基本的な排泄物処理さえ実行しがたかった。
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さらに日米両軍の大量の携帯口糧が捨てられて腐る臭いがこれに輪をかけた。一息吸うたびに、さまざまな悪臭に満ちた熱く湿った空気が流れ込む。肺からこの悪臭が消えることは二度とないような気がしたものだ。


ペリリュー・沖縄戦記 225頁 「第一部 ペリリュー 黙殺された戦闘」


・・・日本人の立場から見ると、何とも表現しようのない状況が延々綴られます。そして驚くのが、勝った米軍も欧州戦線とは比べものにならない地獄絵図を味わっていること。劣悪な環境下で頑強な日本軍の抵抗に遭う。両者ともに「降伏」という選択肢はなく、ただ殺るか殺られるかの死闘を繰り広げる・・・そこには文明や理性という言葉はなく、ただ憎悪と殺戮と破壊あるのみです。そして兵士たちも徐々に人間性が破壊されていく。



さらにおぞましいのが沖縄戦。豪雨と泥と蛆虫と腐臭のただよう戦場で圧倒的な日本軍の砲火に立ちすくむ。精神崩壊する者が続出し、また味方の死体すら埋葬もできず腐っていく・・・首里攻防戦を終えるまで「蛆虫」という言葉のなんと多いこと・・・陰鬱さと悲惨さはペリリューのそれを上回るものがあります。

なお、この本には The Pacific 10話に出てきた日本人女性が乳飲み子を渡す振りして米兵の前で爆死するシーンの記述はありません。(ニコニコで見た)
しかし訳者のあとがきには

なお、本書の原書はそうとうな文量であるため、著者のご遺族のご了解を得て、内容的に重複する部分など一部を割愛させていただいたことをお断りしたい。


ペリリュー・沖縄戦記 470頁 「訳者あとがき」


とあります。もしかしたらあまりにも悲惨すぎて翻訳から外したのかも知れません。


戦争は野蛮で、下劣で、恐るべき無駄である。戦闘は、それに耐えることを余儀なくされた人間に、ぬぐいがたい傷跡を残す。そんな苦難を少しでも埋め合わせてくれるものがあったとすれば、戦友たちの信じがたい勇敢さとお互いに対する献身的な姿勢、それだけだ。海兵隊の訓練は私たちに、効果的に敵を殺し自分は生き延びよと教えた。だが同時に、互いに忠誠を尽くすこと、友愛をはぐくむことも教えてくれた。そんな団結心がわれわれの支えだったのだ。
・・・・・
やがて「至福の千年期」が訪れれば、強国が他国を奴隷化することもなくなるだろう。しかしそれまでは、自己の責任を受け入れ、母国のために進んで犠牲を払うことも必要となる―私の戦友たちのように。われわれはよくこう言ったものだ。「住むに値する良い国ならば、その国を守るために戦う価値がある」。特権は責任を伴う、ということだ。


ペリリュー・沖縄戦記 466頁 「第二部 沖縄 最後の勝利」末文


本書を締めくくる一言です。
〜「住むに値する良い国ならば、その国を守るために戦う価値がある」。特権は責任を伴う、ということだ。〜・・・地獄から生還した著者の言葉だけに、重いです。



The Pacific はニコニコですでに全話視聴を終え、Band Of Brothers とあまりに違う陰鬱なテーマには驚きましたが、「ペリリュー・沖縄戦記」読んでそれも納得です。次は、ジェームズ・H・ハラスの「沖縄シュガーローフの戦い」を読もうと思ってます。

沖縄 シュガーローフの戦い―米海兵隊地獄の7日間

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また数年前に読みましたが、沖縄戦の概要を知るにはこちらの本もお勧めです。「民衆」というとサヨク的な安っぽい内容になりがちですが、本書は子供達の味わった悲劇、日本軍と沖縄県民の関係を判りやすくよく纏めていると思います。

沖縄戦―民衆の眼でとらえる「戦争」

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あと関連リンクです。

The Pacific [Blu-ray] [Import]

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